世間で話題となっているニュースを分かりやすく伝えることに定評のある池上彰さん。テレビでもよく特番を組まれ、その司会を担当されている姿を拝見します。
元々はNHKの記者をしていた方で、その後フリーランスのジャーナリストとして活動。長い記者生活で培われたその取材力と文章力は、目を見張るものがあります。
池上さんはニュース、世界情勢、ビジネス書など数多くの著書を出版されていますが、なかでも有名なのがコミュニケーション能力について書かれた一冊、『伝える力』です。
10年近く前に発売されベストセラーとなった本ですが、僕は最近になって読了しましたので今回はその感想について書いていきたいと思います。
池上さんの話は本当にわかりやすい。
この『伝える力』は文章においてだけではなく、話すことや聞くことなどコミュニケーション能力全般について書かれているので、「どうしたら上手く伝えられるんだろう?」とお悩みのすべての人におすすめできる一冊です。
伝えるためには「深く理解している」必要がある
『伝える力』の根本を支える理論が、「深く理解していないと分かりやすく説明できない」というものです。
この一文にはハッとさせらました。
池上さんはNHKの番組「週刊こどもニュース」で毎週子どもたちにニュースを分かりやすく伝えるという仕事のなかで、このことを実感したそうです。
大人になると「聞くのが恥ずかしい」、「こんなことも知らないの?と思われたくない」などと、分からないことを分からないままにしてしまいがち。
しかし子どもたちは、分からないことを何でも質問してきます。
池上さん自身、子どもに「日本銀行ってなに?」と聞かれて上手く答えられなかったそうです。
もちろん、池上さんは日本銀行が「日本の中央銀行で、銀行券の発行ができ、他の銀行や政府に対する貸出し、金利の操作や公債の受け渡しなどをおこなっている」ということを知っています。
でも、それを子どもたちにそのまま説明しても理解してもらえない。教科書どおりの答えでは子どもたちには伝わらないのです。
そのとき池上さんは、「ああ、僕は知っているだけで理解していなかった」と気づいたそうです。
僕もこれまでに書いた記事で、「うわべだけの知識で書いていると読んでいる人には全然理解されない」 ということを何度も思い知らされました。
人に何かを教えよう、伝えようとするときは、ネットで調べた情報を横流しにしているようでは伝わりません。
そのことについて深く理解し、自分の中で反芻してからかみ砕いて分かりやすく伝えるようにしないとだめなのです。
以下、本書より引用。
何かを調べるときには、「学ぼう」「知ろう」という姿勢にとどまらずに、まったく知らない人に説明するにはどうしたらよいかということまで意識すると、理解が格段に深まります。
理解が深まると、人にわかりやすく、正確に話すことができるようになります。
相手の「へぇー」を増やす
さきの「伝えるためには自分も深く理解している必要がある」もそうですが、もうひとつ「なるほど!」と思わされた文言が、「相手のへぇーを増やす」というものです。
池上さん曰く、「伝える力」が高まったかどうかを確認する一番のバロメーターは相手からの「へぇー」という反応だそう。
自分の話に対して相手の表情が変わらなかったり、つまらなかったりすれば相手はその話にさほど興味を持っていないということになります。
反対に、自分の話に対して相手が「へぇー」という感嘆の言葉をあげれば、自分の話に興味を持ってくれているということに。
つまり、「伝えること」は相手からいかにして「へぇー」という反応を引き出すかともいえるのです。
ブログでも質の高い記事にはコメントがたくさんついたり、SNSでシェアされたりしますが、これもある種の「へぇー」という反応だと思います。
「どうすれば読み手に「へぇー」と言わせることができるか」を常に考えながら文章を書く。
「自分の発言が相手に伝わっているのか不安」「どんなふうにすればいい文章が書けるかわからない」という人は、"相手から「へぇー」を引き出す"ということをひとつの指針にしてみてはいかがでしょうか?
まとめ
池上さんは本当にわかりやすい文章を書く人だと思います。僕が今まで読んだこの手のビジネス書の中ではトップクラスに読みやすく、理解しやすいものでした。
今回の記事では『伝える力』に書かれているノウハウの一部しかご紹介できませんでしたが、本書のなかには「漢語表現や四字熟語の使い方」や「この言葉は使わない」といった、文章力をアップさせるための具体的方法まで書かれています。
文章に限らず、「何かを伝える」ということにお悩みの方は必読の一冊だと思います。
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